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"The Fellowship of The Media"

Our Story of The Birth

by Yoichiro Nagao,
General Manager of KODANSHAtech

「メディアが、自分で技術を持たなくていいの?」

わたしたちKODANSHAtechの誕生の物語は、ウェブメディア・現代ビジネスを抜きにして語ることはできません。

2017年冬。

創業から100年以上という「オールドスクール」の出版社・講談社が運営するウェブメディア・現代ビジネスは、当時、月間1億PVという目標の実現を目指し、「この先、どんな進路をとっていこうか」と暗中模索の状態でした。

編集部のメンバーが寄り集まっては、あれこれアイデアを出し合いました。

編集者というのは「発想」が勝負の仕事ですから、たしかにいろいろな意見は出てきます。

でも、それってどうやって実現するの?

そもそもウェブでは、何が実現できて、それは、どれくらい大変なの?

それまでほとんどの開発案件を外部のベンダーにお願いしてきたわたしたちは、「夢見る」ことはできても、それがベストな方法なのか、どれほどのコストがかかるものなのかを、見極めることができない自分たちに気がついたのです。

現代ビジネスのスクリーンショット
https://gendai.media

はたして、それでいいんだろうか?

そんな違和感が、議論を重ねるたびに増していきました。そして、会社全体を見渡しても、分野を問わず、多くの編集部が同じような問題に直面していることも浮き彫りになってきました。

メディアやコンテンツは、その「内容」だけでなく、それを読者に楽しんでもらうUXそのものと、ますます一体化してきています。

ならば、そのUXを生み出す「技術」そのものも、メディア企業・コンテンツ企業の「商品」というパッケージの重要なパーツではないのだろうか?

もちろん、すべてを内製化することは非効率ですし、さまざまな開発者との出会いも重要なことです。

そうだとしても、メディア企業自身が、「わがこと」としての技術を持っていなくて、いいのだろうか?

そんな考えが認められ、現代ビジネスでは、何人かのエンジニアのみなさんにアドバイザー的に参加いただくことになりました。

現代ビジネスが飛躍するために、何ができるだろうか?

他の案件なども抱えるなか、エンジニアのみなさんは夕方から講談社に集まって、熱い議論を展開してくださるようになりました。

これが、KODANSHAtechに至る、わたしたちのチームの「最初の姿」でした。

* * *

「techチーム」の誕生

2018年6月、わたしたちは、現代ビジネスだけではなく、社内のさまざまなウェブメディアへのコミットすることを期待され、会社の組織上、独立したチームとなりました。

通称「techチーム」と呼ばれるこのチームは、FRIDAYデジタルをゼロから作り上げました。

FRIDAYデジタルのスクリーンショット
https://friday.kodansha.co.jp/

その後、オープン1年半で1億PV超を達成することになるFRIDAYデジタルは、React、Next.jsなど、それまで講談社の社員が聞いたこともなかったような、さまざまな技術を利用しながら構築されました。

それは同時に、これからのメディアをどう作っていくかという、エンジニアによる実験や試行錯誤が、メディア企業の内部で行われた過程でもありました。

SPAでの広告配信は、どのように行えばよいか?

写真中心のメディアであるFRIDAYで、どのように画像を配信するか?

折しも開かれたラグビーワールドカップの特集ページでは、まだ日本の一般読者には必ずしもなじみのなかったラグビーを、わかりやすく楽しんでもらうために、わかりやすいUI/UX設計の研究や、動画コンテンツをどう見せるかが話し合われました。

こうして、メディア開発ならではのさまざまな論点が、編集部や広告部門なども巻き込みながら、活発に議論されるようになりました。

また、この頃には、半世紀以上の歴史を持つ講談社の科学ブランド・ブルーバックスのサービスとして、研究者を支援するクラウドファンディング・プラットフォーム、ブルーバックスアウトリーチを立ち上げるなど、メディアや伝統的なコンテンツブランドを「拡張」する、新しいビジネスの提案・構築にも乗り出しました。

* * *

そして、起業へ──

こうして、ウェブメディアの中でもニュースメディア、科学ブランドと活動の幅を広げてきたtechチーム。

現在ではさらに、女性誌系のFRaUVOCEViViの運用にもかかわるようになっています。

我々が関わってきたサービスのスクリーンショット
これまでにかかわってきたメディアやサービス。現代ビジネス、FRIDAYデジタル、ブルーバックスアウトリーチ、FRaU、VOCE、ViViなど。

しかし、フリーランス・エンジニアのみなさんに集まっていただき、業務委託で参加してもらいながらチームを運営してきたわたしは、そんななかで、ある「微妙な壁」を感じるようになりました。

もっと精緻に、ウェブメディアにコミットしたり、新しいアイデアを実現したりしていくためには、チームを拡大していかなければなりません。

さらに、講談社全体を見渡せば、マンガや小説など、まだあまりタッチしていない分野にも、技術との化学反応で「おもしろいこと」が起きそうな分野は、たくさんあります。

人手がもっと必要なことは明らかでした。

もちろん、シンプルに、フリーランス・エンジニアのみなさんを募集して、参加してもらうという手段もあります(そして、あなたがいま、メディアに興味があるフリーランス・エンジニアであれば、ぜひご連絡ください)。

ただ、一方で、すでに開発会社、制作会社に所属されている方々にとっては、「フリーになって来てください」というのは、ちょっとハードルが高い。

かといって、講談社の本体に就職していただくのはどうかといえば、エンジニアの働き方にあう就業体系も整っていないし、エンジニアを評価する体制があるわけでもありません。

ならばいっそのこと、フリーランス・エンジニアの働き方の「いいところ」「自由なところ」と、企業としての「いいところ」をあわせもった会社を作ってしまえばいいのじゃないか?

こう上申したところ、役員の方々、そして社長にも認めていただくことができました。そして、多くの人のご協力を経て、講談社グループに、新しい会社を立ち上げることができたのです。

2019年8月に登記し、準備を開始。実際にエンジニアのみなさんに参加いただけるようになったのは、2020年の年が明けてからでした。

そこで、数字のゴロのよい"20200202"(回文ですね)を創業の記念日とおくことにしたのです。

* * *

この会社が目指している「働き方」

さて、わたしが、フリーランス・エンジニアのみなさんと接して感じた、働き方の「長所」は、大きく3つです。

  1. 働く時間が、手持ちの案件に応じて、有機的に変えられること。
  2. さまざまな案件にコミットすることで、技術的・社会的な研鑽を積むことができること。
  3. 自分の「市場価値」や案件の「おもしろさ」のバランスを自分で取りながら、納得したうえで働けること。

一方で、いわゆる「会社」のいいところとは、なんでしょうか。

  1. 基本的な税務処理など、フリーだと自分でやらなければならない作業の負担が減ること。
  2. 健康保険や厚生年金など、セーフティネットが個人事業主より手厚いこと。
  3. 中長期的に「安定して仕事がある」という安心感があること。

こうしたことを両立させるため、KODANSHAtechは、いくつかの「工夫」をめぐらせています。

まずご紹介したいのは、「働く時間」の合意の仕方です。

これを考える上で参考になったのは、先進的な勤務体系を整備されているサイボウズ社(東京・中央区)の方法でした。

KODANSHAtechでは、「来月は、週のこの曜日に、この日数だけ働きたいです」ということを、マネジメントと相談して決めることができます。

その理由は問いません。「来月はプロ野球のシーズンが始まるので、どうしても仕事を減らして応援したい」なんていう理由でもよいのです(これは、サイボウズ社でヒアリングに応じてくださった方の説明の受け売りです)。

もちろん、扱っている案件の状況を無視して日数を減らすといったことはマネージャーとしては合意できませんが、もし事前に、ある時期にどう働きたいかわかっているのであれば、事前の仕事の割り振りや進め方を相談することもできるでしょう。

こうした「翌月の働き方を選択できる」というのは、フリーランスの方々の「自分の働き方を選べる」という長所ともマッチしていると考え、取り入れることにしました。

さらに、KODANSHAtechでは、全社員が裁量労働制をとることにしました。

世間では、場合によってはブラック労働の温床にもなるのでは、などと指摘されることもある裁量労働制ですが、実は出版社の編集部門は、世の中のさまざまな業種で解禁される以前から伝統的に裁量労働制を採用してきたので、我々は「各人が自分なりに時間をうまく使って働く」という勤務スタイルに慣れています。

これにより、「とくに意味もないのに出社」とか「9時5時で出勤時間が固定」といったことはなく、「必要な時間に働く」ということが可能になりました。

また、テレワークも全面的にOKです。もちろん、コンテンツを生み出している編集部と、まったくコンタクトをとらないまま、プロジェクトにコミットしていくのは現実的には難しいので、「まったく出社の必要はないです」とは申し上げられませんが、いったん手を動かすフェーズに入ってしまえば、「今日は自宅で作業します」ということも可能です。

いい話ではありませんが、KODANSHAtechが本格稼働を始めた2020年2月以降、世界が直面した新型コロナウイルスの感染拡大に際しても、こうした自由度の高い働き方を前提に準備してきたことで、比較的落ち着いて対応が取れてきたと感じています。

次に「いろいろな案件と出会える」というフリーランスの長所に対応する部分です。

KODANSHAtechでは、兼業を原則として認めています。

これは、入社後も、スケジュールを調整しながら、個人事業主として働くことや、先方の企業との合意が取れれば、複数の企業をまたいで社員になる方が出てくることも想定してのことです(もちろん、健康保険の扱いなど、まだ日本の社会保障制度が十分対応できていないところもありますが、それでも可能な限り対応するつもりです)。

興味深い案件があれば、その仕事を通じて、講談社の事業からだけでは得られない知見を得ていただき、またどこかで活かしてもらえればと思っています。

最後に、いわゆる「評価」についてです。

KODANSHAtechは月給制ですが、最初に「年俸相当額」を提示させていただいています。

これは、「年間の営業日数を、フルにKODANSHAtechで働いていただいた場合にお支払いする計算になる、年間の基本給の額」です。

この金額については、毎年どうするかを合意する相談をします。

日本の一般的な企業カルチャーは、相変わらず「年功序列」が主であり、長く働いている人なら給料が上がる、という仕掛けですが、KODANSHAtechでは、その人のスキルアップなどによる「市場価値」と、働きぶりを見てきたマネジメントのフィードバックによって、次の1年のお給料が決まります。

ある意味では、働く人にもマネジメントにも「しんどい」やり方ですが、納得と合意に基づいて働いていただく、ということを目指しています。

* * *

こんな人を求めています

こうした、自由度の高い働き方は、ひょっとしたら、開発企業ではむしろ、当たり前のことかもしれません。

では、KODANSHAtechの本当の「魅力」とは、なんでしょうか。

たとえば、お給料の水準が、他社より高いのだとか、そんなことはありません。

でも、わたしたちは基本的に事業会社であり、そしてメディアとコンテンツを扱っていることが、最大の特徴です。

KODANSHAtechのメンバーは、株式会社講談社の中にある、前述の「techチーム」のメンバーとして、つまり講談社のメディア事業を発展させるための「仲間」として、ウェブメディアの編集部と同じフロアで仕事をすることになります。

やがて、関連する分野が広がっていけば、やはりわたしたちは編集部の「中」に入って、「外の人」としてではなく、「中の人」としてコンテンツの世界にコミットしていくことになるでしょう。

ですから、メディアやコンテンツビジネスの仲間として、その中で「技術で何かに挑戦してみたい」という方にこそ、KODANSHAtechの仕事は向いていると思います。

それこそが、興味のある方にとっては、最大の魅力ではないかと思います。

一方で、そんな環境だからこそ技術力以外で、どうしても「求められてしまう力」も正直、あります

それは、コミュニケーションの力です。

とくに、非技術系である編集者(当たり前ですが!)とのコミュニケーションを経ないと、コンテンツでおもしろいことをしたい、と思っても、なかなか実現はできません。

あるいは、外部のベンダーに入ってもらう場面や現場から意思決定権者に話を上げる場面などでは、技術を非技術の文脈で生活している人に伝える、「通訳」としての能力が求められる場面もあるでしょう。

「そういうのは絶対ムリ」「それって営業の仕事じゃないの」と感じる方には、残念ながらKODANSHAtechは、あまり向いているとは言えません。

最初はあまり話の通じなさそうな、雑誌編集長でしたといった風情のおじさま方が、次第に話にのってくる感じを、むしろ楽しんでいただけるような方が、向いていると思います。

そうした意味もあって、KODANSHAtechでは、原則として社会人経験3年以上の方を募集の対象としています

編集者という人種は、非常にクセが強いので、その毒気に当てられても、楽しんでいけるような力が必要だというニュアンスです。

もちろん、社会経験の浅い、若い方々の実力、コミュニケーション能力を疑っているわけではありませんが、経験が浅くて入社のご希望をいただく場合は、上記の点はちょっと腹をくくってお願いします。

また、むしろ逆に若い方々に対しては、この会社では、他の会社に出て通用するような、いわゆる「社会人教育」を行うことは難しいとも思っていますので、そうしたことは期待できないと考えてください。

最後になりますが、上記で触れたように、KODANSHAtechという会社は、講談社の内部の「techチーム」と、渾然一体となって運営されていきます

もし、あなたが「この文章を書いた人間の言っていることはよくわからないが、なんとなくおもしろそうかもしれないので、試してみたい」と思ってくださったとしたら、いきなりKODANSHAtechに入社するのではなく、ためしに講談社でフリーランサーとして、業務委託で働いてみてもらうという方法もあります

そして、気に入ってもらえたならば、KODANSHAtechへの入社を検討していただくという手順でも、我々としてはなんの問題もありません。

結局のところ、この文章を書いている時点で、わたしたちはまだ、立ち上がってから数ヵ月の「よちよち歩き」の会社です。

ただ、ここに至る経緯と、問題意識と、そしてこの会社での働き方を、正直に表明することで、少しでも仲間になってもらえる方が増えるなら、これほどうれしいことはないと考えて、「メッセージ」として、この文章を公表します。

まずは、ちょっとしたご質問からでも結構です。

メディアを作り、そこに技術で付加価値を付け加えていく仕事に興味を持っていただけたなら、ぜひ、わたしたちにご一報ください

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2020年4月(2021年6月更新)

KODANSHAtech合同会社 ゼネラルマネージャー 長尾洋一郎

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